「パラサイト」と「PRODUCE101問題」 半地下に渦巻く怒りと不信

本当は先にAIEA THE DECADEまとめるはずだったんですが、先ほど夜中に目が覚めて、インスピレーションが来たというか、あー、そういうことか!となったので、まとめておきます。

先日、「パラサイト 半地下の家族」見てきて、まぁもうともかく感情を揺さぶられまくったわけですが、ここから書くことは、軽くネタバレになるので、これから見る!という方は読まない方がいいと思います。もう見た!という方、是非お読みください。時計回りにお読みください。


映画『パラサイト 半地下の家族』日本へ向けたキャストメッセージ映像

世界的快進撃を続ける「パラサイト」の制作費

で、ですね、この映画、最終的に一番大きなテーマは、格差のある社会における怒りの矛先、みたいなことになっていくんですが、そしていつも一番弱い存在にしわ寄せが行く、という、まぁ哀しい話であります。

「パラサイト」で印象的なのは、雑然とした下町と浮世離れした豪邸のコントラストだと思うのですが、この双方ともが、完全に映画のために作られたセットだというのが驚きでした。どんだけ手間と金がかかってんだよ!っていう。


半地下の家も豪邸もセット!映画『パラサイト 半地下の家族』特別映像

「パラサイト」の制作費は135億ウォンだそうで、日本円で13億円前後ということになりましょうか。5分の1というのはアメリカと比べてなのかな?

www.msn.com

 標準労働基準法が適用されるに応じて製作費が上がった点も言及した。の制作費は5分の1の水準である135億ウォンだ。

 スタッフへの給料がちゃんと出ていることを気にしているところがえらい。

 報道によると、彼は「良い意味の上昇だと思う。演出部末っ子に給与をこっそり尋ねた今、米国や日本のスタッフに負けなかったよ」とし「私は雇用関係で彼らに甲はありませんが、彼らの労働を率いて芸術的位置から甲の位置にあるので、私の芸術的判断で労働時間と仕事の強度が数えことが常に負担だった。今や「正常化」されていくという考えである」と述べた。

 ちなみに13億が日本映画でどのくらいかというと、「シン・ゴジラ」がだいたい同じぐらいのレンジではないかと言われているようです。

eiga.com

 「老若男女問わず楽しむことができる映画ですよ、これは。それにハリウッド版の総製作費の十数分の一以下で仕上げているんですが、製作費をいくらかけたとか、そういう話じゃないと感じたんです」と穏やかな笑みを浮かべる。

 ハリウッド映画にしたら超低予算、でも日韓で言ったらかなりの大作、そういう規模の作品ということです。

「パラサイト」の配給会社は、渦中の巨大企業 CJ ENM

で、「パラサイト」の配給会社は、ご存知CJ ENM。そう、Mnetの運営会社であり、PRODUCE101シリーズの問題で大揺れに揺れた、韓国の巨大企業であります。こちらの記事で、Mnet責任者のシン本部長のこととか、会社の規模のこととか、まとめております。この記事の時点で時価総額がSMエンタの3.6倍、JYPの4.2倍。

nanjamon2.hatenadiary.jp

2019年12月30日には、社長が直々に頭を下げ、この問題について不正を謝罪しました。

jp.yna.co.kr

自分は映画について全く詳しくないので、よくよく考えると配給会社が何をするか、よくわかってなかったのですが、とりあえずウィキペ見ると以下のような役割とのことです。映画の卸問屋。

映画配給 - Wikipedia

映画作品を完成させるまでが映画製作であり、エンドユーザに向けて上映業務・接客業務を行うのが映画興行であり、その両部門を結ぶのが映画配給である。経済活動としてみると生産者から商品を仕入れ、小売業者に販売する卸売業にあたる。

映画も興行であり、経済活動ですから、すげー雑ですけども、制作費と広告費とかいろんな経費がかかり、最終的にたくさんの人に映画を観るためにお金を払ってもらうことによって、その経費をペイしなければならない、ですよね。そして、たくさんの人に見てもらうためには、強力な配給会社と組むことが非常に有効であることは間違いないでしょう。 

持つものと持たぬもの、上層と下層の間にある断絶と怒りと悲しみと諦めと恨みと不条理を描いた「パラサイト」は、超巨大企業による配給によって世界に届けられ、そしてそれが巨大企業の収益になっているわけです。皮肉ですが事実です。

IZ*ONEへのバッシングと「パラサイト」には、共通の怒りがあった

で、PRODUCE101シリーズの問題に戻るのですが、この問題が明るみに出た時に、活動していた番組出身グループがIZ*ONEとX1で、この2組とも11月から活動停止を余儀なくされるわけです。

その中で、「練習生に罪はないかもしれないが、グループの活動でCJ ENMが儲けるのが気に入らない」という批判的意見があって、これ、根深いなーって感じだったんですが、「パラサイト」を見て、余計にリアリティを増したというか…。

「俺は正直に生きているのに貧しい!辛い生活を送っている!でも、お前は嘘をついて儲けてるじゃないか!楽な生活を送ってるじゃないか!」というような怒りが、社会の根底にあるんじゃないか?と思ったんです。

「パラサイト」の一家は全員失業中、子どもたちは大学にも入れていません。これは、現実に韓国の就職事情が厳しいこと、受験戦争が苛烈なことを下敷きにした設定でしょう。

「パラサイト」では、妹は美術大学に入ることが出来ていませんが、兄の大学在学証明書を器用に捏造します。兄がその在学証明書を持ち、豪邸に入り込むところから、物語が本格的にスタートします。

ここにも、「実力があっても望んだ大学に入学することが出来ない!公平に能力を測っていないだろう!」という、社会にある不信感を見ることができます。

そして、IZ*ONEの活動再開について、自動翻訳ですが「大学入試も不正が行われていたら取り消されるのに、なぜこの子たちは許されるの?」というようなコメントも見かけました。 

「パラサイト」の様々な設定と、PRODUCE101シリーズに対する批判は、いくつかの共通点があるんですよ。

それらをまとめるなら、「本来公平であるべきはずなのに、なぜそうではないのだ!」(そして私は不利益を被っている)という怒りと不信感です。

逆に言うと、社会の中に「公平さ」に対する希求が強くある、という言い方も出来るかもしれません。

サバイバルオーディションの主人公たちは、半地下の住人だった

「パラサイト」を観た後に、なんかこの風景、アイドル絡みで見たことあるなーって、なんとなく思ってて、それを先ほど、夜目覚めた時に「これだー!」ってなったので、こんな記事を書いてるのですが、半地下を「アイドルマスターkr」で見たんですよ。アイマスを韓国のアイドル練習生に置き換えてドラマ化したやつです。


韓国ドラマ「アイドルマスター.KR」トレーラー

最初に練習してる事務所の練習室、これ、完全に半地下ですよね?自分の中で、うわー!アイドルと「パラサイト」がつながった!!と興奮しましたねw

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「パラサイト」の貧しい家族と、「アイマスkr」の貧乏事務所、双方ともに、半地下であることを苦境の象徴として使っているわけです。日本人が思うよりも、韓国での「半地下物件」っていうのは当たり前の存在なんでしょう。

www.konest.com

 キーワードその1
「半地下」
韓国の住宅形態を表す言葉。韓国語では「반지하(パンジハ)」と表記する。
文字通り完全な地下ではなく、半分地下に埋まった部屋であり窓から眺める目線はまさに路地を歩く猫と同じ高さにある。
日当たりが悪くジメジメしているため必然的に家賃も安くなる。

不動産屋の店頭での物件情報表示は韓国にもあるが、この情報欄に「半地下」の文字をみつけることもできるほど韓国では半地下の物件は日常的に存在する。

これ、アイマスkrだけの話じゃん!っていうわけではないと思うんですよ。貧乏な芸能事務所が実際に半地下にあって、そこで苦しみながらもレッスンとトレーニングを続けている練習生が実際にいるからこそ、こういう描写が生まれるんだと思います。

<追記>

keitadjさんに情報いただきまして、Secretが「半地下アイドル」って呼ばれてましたよねって。確かに覚えがあるんで、シクリのこともどっか無意識のうちに考えてたかもしれないなー。

www.barks.jp

彼女たち4人は、2009年のある日、突然携帯電話を没収され半地下の部屋に集められてグループが結成された。韓国芸能界特有の制度である「練習生」として、長い間チャンスを伺いつつもデビューに至らなかった。

これいろんな媒体で入ってる記述なんで、なんていうかある意味PR送った側のウリのポイントってことですよね。

www.wowkorea.jp

「Secret」は、韓国芸能界特有の制度である「練習生」として、長い間チャンスを伺いつつもデビューに縁の無かった苦労人。2009年のある日、突然携帯電話を没収され半地下の部屋に集められてグループは結成された。


시크릿 (Secret) - Madonna M/V

久々に聴いたら懐かしくて悶絶いたしました。日本のテレビにもちょいちょい出てたよなー。

PRODUCE101の魅力は、公平な国民プロデューサーの判断だった…はず

本家PRODUCE101シリーズでは、練習生たちの所属事務所が大きく取り上げられていました。大きな事務所だから、能力もすごいはずね!とか、小さな事務所からやってきた練習生の快進撃、とか。

いろいろな楽しみ方があるプログラムでしたが、魅力の一つとして、「小さな事務所からやってきた垢ぬけない練習生が、努力をしながらスポットライトを浴び始める」という、まさにドラマティックな展開というのがあったと思います。

半地下で苦労をしている練習生が、大手事務所のスター練習生を追い抜いていく、そんな快感が、PRODUCE101シリーズの中にはあったはずです。

そして、その練習生を輝かせるのは、既に権力を握っているプロデューサーやお偉いさんではなく、国民プロデューサー、そう、あなたです!とやったわけです。国民の意志による公平性によって、新たなスターを生み出しましょう、ということで、思い入れを持たせたわけです。

でも、そこが実は公平ではなかった。すでにお偉いさんたちの会合で決まっていた。決めるために、巨額の接待をしていた。それでいて「あなたたちが決めています、公平です!」と言い張り、デビューさせたグループで巨額の利益を得ていた。

「そんなもんでしょ」と達観=諦める人もいれば、そりゃもう「お前ふざけんなよ!」となる人もいるでしょう。

半地下から、また地下に蹴落とされた怒りが悲劇を生んだ

今回の問題の中で告発をしたイ・へインは、PRODUCE101シーズン1とアイドル学校に参加、どちらでもデビューには至りませんでした。関係者は「あなたのためにグループを作ってあげる」とまで言ったにもかかわらず、そのグループは実現しませんでした。

news.kstyle.com

落ちた次の日に契約解除を要求し、当時あった操作論争に対して真実が何か教えてほしいと言いましたが、「あなたリアルタイム検索ワードに上がったじゃない。君が勝利者だよ」と言って、これ以上疲れてグループ活動などしたくないという私に、君のためのグループを作ってあげると約束しました

そして出演したい番組は何か、その当時、個人的に連絡が来たドラマやさまざまな仕事をさせてあげるし、練習室に絶対に放置しないし、個人活動をしながらグループデビューを準備できるようにしてあげると約束して、後日比較的に練習期間が短かった練習生たちと一緒にいた時も、「私はここでデビューの約束をしたのはヘインしかいない。みんな準備できなければ、ヘイン一人でもデビューさせる」と話しました。

彼女は、いわば半地下から這い上がろうとしたときに、また後ろ回り蹴りで突き落とされた存在です。サバイバルオーディションは、そんな存在を数多く生み出していたのでしょう。そして、その恨みが噴出した時には、どんな惨事が起きてもおかしくないじゃないですか。

「真相究明委員会」は、PRODUCE101シーズン4「PRODUCEX101」で落選した練習生を応援していたファンの怒りと不信感をきっかけに生まれました。そして、この訴えが警察を動かし、PRODUCE101シリーズ全体の投票操作問題が明るみに出たわけです。結果的には、「PRODUCEX101」から生まれたX1が解散を余儀なくされました。

我々は、怒りと不信感を越えることが出来るのだろうか?

IZ*ONEは日本の事務所との関係もあってか、存続とカムバックの方向性に動いていますが、茨の道であることは間違いないでしょう。彼女たちのデビュー曲は薔薇がモチーフでした。茨の道を歩む運命はもう既に暗示されていたのかもしれません。

そして、彼女たちを生き延びさせているのは、このグループが「国境を越えた友情」を大きなテーマとして設定されたグループであることが大きいようにも思います。出来た経緯に不正があったとしても、本人たちに責任はないし、デビューしてから国を越えて育んできた友情とパフォーマンスに嘘はない、という事実が、彼女たちを解散から救っているように、自分には見えます。分断に対抗する力が、そもそも彼女たちにはあるように思うんです。

CJ ENMは、253億ウォン(約25億円)の基金を設立し、中小事務所への援助を行うことを明らかにしました。いわば、半地下にある事務所を、地上に引き上げようという動きです。

www.mk.co.kr

19日、ベンチャー投資業界によると、CJ ENMは17日、ソウル某所でKCベンチャーズと253億ウォン規模のファンドを結成することに最終合意した。CJ ENMが250億ウォン、KCベンチャーズが3億ウォンを出資することにした。

ファンドが運営されると、投資不足でデビューに困難を経験する中小エンターテイメント社アイドルが恩恵すると予想される。企画会社のほか、国内の音源・レコード産業の活性化に貢献する企業や、Kポップ4次産業化に貢献するプロジェクトにも投資することが伝えられた。業界関係者は、「CJ ENMが`プロデュース`シリーズで中小企画会社核心人材を自分たちの収益事業に利用しているとの批判が多かった」とし「ファンド組成でKポップ産業全般で強固な支援軍に新たに出発して欲しい」と説明した。

その記事の中では、最後にIZ*ONEが活動再開に向けて動き始めていることが明記されています。

ガールズグループIZ*ONEは所属事務所間のグループの維持に意味を集めた。昨年11月に発売予定だった新しいアルバム'Bloom*IZ`が予約販売40万枚程度を記録しトップガールズグループとしての地位を固めたためだ。IZ*ONEは、最近ソウルのあるオフィスで振り付けの練習をしてカムバックのための焼入れに出たことが分かった。

そして、CJ ENMが配給する「パラサイト」は、ただ単に、富むものをより富ませる=寄生虫を肥え太らせるだけの作品ではないと思います。

「パラサイト」のような映画によって、世界中の観客が、自分の今いる場所がどのような犠牲の上に成り立っているのか/誰のために犠牲になっているのか、を問い直すことが出来るからです。

半地下に住まうことを受け入れるのか、それとも、そこを出て新しい住まいを探すのか、はたまた、半地下に起きた災害のために募金をするのか。もしかすると、何も動かないかもしれないけれど、それでも、考えることはできる。

「パラサイト」は、そういう、悩みの種になるような、素晴らしい映画だと思います。そして、そんな素晴らしい映画を作り出し、世界に広げることが出来るのは、大きな企業の力だ、ということも事実なんです。

我々の中には、怒りもあり、不信もあり、無知もあり、傲慢もあり、諦めもありつづけることでしょう。そこは人間である限り離れることのできない場所だとも思います。

ですが、怒り続け、傷つけ続けるだけではなく、多くを知り、笑い、楽しみ、愛することも出来る存在でもあります。分断を越えることが出来ます。そして、そのために、娯楽、エンターテインメントがあるのではないでしょうか。

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