ほんとに久々に、日本のアーティストでは「なんじゃこりゃ!」と思ったんです。今話題の藤井風くん。既にいろんなところで話題になってるので、後追いではあるんですが、調べ始めたのでまとめます。調べたくなる人なのよ。
孤高の才人、藤井風のオリジナル楽曲群
今、上がってる中でも最新のMVが『キリがないから』。これ、最初の出音から反応するでしょ。一瞬のノイズからの浮遊感のあるシンセ、そして色気溢れる声。
ともかく編曲のセンスが良いんですよ。エレクトリックで広がりがあって、抑揚もしっかりついている。そこに何重にも重なった声がかぶさってきて、何度も聴きたくなる。
藤井 風(Fujii Kaze) - "キリがないから"(Cause It's Endless) Official Video
個人的に最初に耳にして「うわッ」と思ったのが『優しさ』。ピアノに耳を奪われて、そこから繊細な声がスーッと入ってくるという。
メロディーも、ものすごく分かりやすくて、これはマスにも十二分に売れるだろうなーと思ったんですよね。久保田利伸、平井堅、宇多田ヒカルといった、大ヒット歌手たちの系譜に繋がるんだなーと。
藤井 風(Fujii Kaze) - "優しさ"(YASASHISA) Official Video
エレピの優しい音色と囁くような歌声から、サビの優しいコーラスで「もうええわぁ」と歌われる『もうええわ』も、ベタかもしれないけど、独特の優しさと切なさがある。サビの後のピアノのメロディがなんかめちゃめちゃ泣けるよね。なんだろうコレ。
藤井 風(Fujii Kaze) - "もうええわ"(Mo-Eh-Wa) Official Video
こう聴いていくと、デビュー曲の『何なんw』はものすごくキャッチーで、それでいて、散りばめられた岡山弁のフックもあって、これでデビューしようというのは、すごくわかるという。
藤井風(Fujii Kaze) - “何なんw ”(Nan-Nan) Official Video
というMVを見てた時に、何の設定か、ハングルで字幕がずーっと出てて、オフィシャルなもんじゃないんですけど、あー、こうやって音楽というか文化が国を越えてお互いに影響していくんだなーと思ってめちゃめちゃ感慨深かった。
あと曲の説明してるのが英語なんだけど、この感じで全然嫌味がないのが凄いな。嫌味を感じてた方がしょうもないって話なんですけど。
"キリがないから"って何なん Kaze talks about “Cause It's Endless”
ちょっとだけ寄り道 藤井風が好きならこのあたりのKはいかが?
自分はここ数年はK-POPばっかり聴いてて、ダンスミュージックが下敷きにあるポップスは、韓国がめちゃめちゃ強かったじゃないですか。そこに全然負けない強い曲が出てきたなーって思ったんですよね。
すぐに頭に浮かんだのが、ウソク×グァンリンの『IM A STAR』とか、JBJ95とかで、もっと似てる曲はあると思うんですけど、ここら辺の音の質感に似てる気がするんですよね。PENTAGON本体の名曲『Shine』の方が似てるかなー?まぁ曲が好きなだけなんですけど。
[MV] WOOSEOK X KUANLIN(우석 X 관린) _ I'M A STAR(별짓)
[MV] PENTAGON(펜타곤) _ Shine(빛나리)
や、男性ソロということでいったらDEANやジコと比肩するべきなのか?ともかく、このあたりの曲を聴いたときのワクワク感をもらえる男性ソロが日本から出てきたというのは、うわーやったね!って感じなんです。
[MV] ZICO(지코) _ Any song(아무노래)
まずは参加してる作家から!プロデューサーを務める国際派Yaffle
個人的には、まずこの音作りを誰がしているか、ということが気になったのです。で、公式サイトのプロフィールには、このようにある。
5月20日(水)、1st Album『HELP EVER HURT NEVER』(全11曲)をリリース!
作詞作曲は全曲「藤井 風」。サウンドプロデューサーに「Tokyo Recordings」の主宰として数々のアーティストをプロデュースする「Yaffle」氏を迎え、ファーストアルバムにして2020年を代表する名盤が誕生した。
このYaffleという方が、サウンドメイキングを指揮しているのだろう、と思いまして調べてみたら、なんつーか面白い人をいっぱいプロデュースしているんですよ。
Tokyo Recordings の設立メンバーの一人で、Capeson のプロデュース、柴咲コウ、水曜日のカンパネラ、上白石萌音、Charisma.com、SIRUP、iri らのアレンジや楽曲提供から CM、映画『ナラタージュ』などの音楽制作等、幅広く活躍する気鋭のソングライター/プロデューサーである。
以下の記事にはルーツになった楽曲のプレイリストとこれまでにプロデュースした楽曲のプレイリストがあるんですけど、ルーツ曲は玉置浩二とかスキマスイッチ、くるりが入りつつ、SqureapusherやAphex Twinも入り、クセナキスも入ってて、あとはtoeの『グッドバイ』とか、Mura Masaも入ってるし、そうそう、HYUKOHも入ってた。自分がわかる範囲で見ても、めちゃめちゃ幅広い。
プロデュース楽曲も見てみよう。Tokyo Recordingsの盟友、小袋成彬との『Lonely One feat. 宇多田ヒカル』のスタジオリハにはYaffleも映っている。スタジオでリハしてるだけなのに、静謐さとドラマティックさの両立っぷりが、まぁすごい。
小袋成彬 「Lonely One feat. 宇多田ヒカル」スタジオリハーサル映像
あとはChelmicoがスタジオ訪問をしてる動画とかもあります。飛び飛びで見てみたけど、ホントに小袋氏とツーカーの仲なんだなーってのが伝わる感じ。
で、Yaffle名義で、イタリアだったりスウェーデンだったり、いろんな歌手との作品作りもしてる。
Yaffle - UNIKA feat. Raphael Gualazzi (Official Lyric Video)
先ほどリンクしたインタビューでは、以下のように語っております。この方向性を持ったYaffle名義でプロデュースしたのが藤井風、というのが、一つのキーだと思います。
ーYaffleプロジェクトはどういったものにしていきたいと思っていますか?
面白いものは作り続けたいですよね。自分の実績が増えて興味を持ってくれる人が増えれば、僕を媒介に色々な人を繋げていきたいです。イタリア人のジャズマンの演奏にフランスのラッパーをのせるみたいな。
あとはローカル的な曲にも惹かれてますね。イタリア語圏とかフランス語圏とか中国語圏とか、その中で文化ができているけど世界的なチャートには反映されない音楽とか。
実際ラファエル・グアラッツィっていうイタリアの歌手にイタリア語で歌ってもらった曲も作ってるんですよ。言ってる意味はわからないけど、彼らのローカル言語で歌ってもらったほうが説得力があるような気がして面白いんですよね。
あー、あとプロデュース楽曲の中では、iriの『Clear Color』がすごい好きなんだけど、フルでYOUTUBEになくて、ダンスクルーがショートで踊ってるのがあるのでそれ貼っときます。これで本人たちが歌ってたら完全にKのボーイズグループだよねw
サウンドメイキングのもう一人の重要人物、小森雅仁
で、藤井風公式Twitterで、プロデューサーのYaffleと並んで、アルバムの重要人物として挙がっているのが、小森雅仁という方。
ついに完成しました。
— Fujii Kaze 藤井風 (@FujiiKaze) 2020年3月20日
藤井風1stアルバム
”HELP EVER HURT NEVER”
まさに、いま仕上げの作業中です。
ヤバいことになるから、
覚悟しといてね( ◠‿◠ )♡🔻https://t.co/SRPorK67Zt pic.twitter.com/oXVSAF8NrK
手掛けた楽曲を挙げて行けばキリがない感じなんですが、iriつながりだと『24-25』のミックスを担当しているそう。
iriさんの新曲「24-25」
— 小森雅仁 Masahito Komori (@mkmix4) 2020年1月8日
ミックス担当させてもらいました
Prodはエズミ・モリさん@esme_mori
今回もありがとうございましたー! https://t.co/VcvCYQcuNW
この方、もう既に音楽ナタリーで単独インタビューがあったりします。しかもエンジニア連載の第一回ですよ。若手ってあるけどむちゃくちゃメジャーなところで仕事してる。優秀なんすね。
インタビュー読むと、米津玄師の『海の幽霊』とかめちゃめちゃ共同作業ですねコレ。インタビュー読むと『Lemon』にも『パプリカ』にも携わってるみたい。
米津玄師 MV「海の幽霊」Spirits of the Sea
──小森さんはボーカルに積極的にエフェクトをかけることが多いと感じました。例えば米津玄師さんの「海の幽霊」(2019年6月発売)は、ボーカルにかなり極端なピッチ補正をかけて、エフェクトとして機能させていますよね。曲自体は普通に美しい方向性の作品なのに、あそこまで歌に大胆なエフェクト処理をしているのが新しいなと思ったんですが、あれはどういった経緯でかけることになったんですか?
あの処理は僕がやったわけではなくて、最初から米津さんがそういうアレンジにしたいということだったんですね。僕が歌録りをして音声データを渡し、ご本人が処理してきたものを受け取ってミックスしました。なので米津さんによってエフェクトがかけられた声とストリングスなどの音を、トラックの中でいかに自然に共存させるか調整するのが僕の仕事でした。曲の中にドラマチックな展開があったほうがいいと思ったので、エフェクト音はバースではモノラルで、サビになったときにステレオに広がるような処理をして。
で、既にYaffleとも結構タッグを組んでるようです。藤井風の広大な音楽世界は、名うての職人たちによって作り上げられていたのだわ。
──アーティスト自身がエフェクト処理したり、アグレッシブなオーダーを具体的に指定してきたりすることはよくあるんでしょうか? 例えば、SANABAGUN.やTHE THROTTLEのフロントマンを務める高岩遼さんの「ROMANTIC」(2018年10月発売「10」収録)でもピッチシフトが使われていますが。
高岩さんの曲に関しては、プロデューサーのYaffleさんからすでにエフェクト処理されているデータを渡されることが多いですね。Yaffleさんも自分で打ち込みやアレンジをやる方で世界観ができあがっているので、それをどう具現化するか、再生環境を選ばない立体的なミックスにするかというのを考えながらやっています。
ちなみに先ほど貼った『UNIKA』もYaffle&小森タッグによるもの。やー、このコンビがデビューアルバムを手掛けるってホントに期待されているからこそだよなー。
──先ほどYaffleさんは最初から楽曲の世界観ができあがっているという話がありましたが、どういうやって作業を進めていったんですか?
Yaffleさんの場合、毎回ご本人がしっかり作った参考用の2ミックスがマルチトラックと一緒に送られてくるんですね。なのでそれを聴いて、そこに寄り添いながらかつ自分の提案も入れながらやっていく感じですね。「UNIKA」に関してはレンジ感は広くモダンな雰囲気にしながら、ベースなど1つひとつの楽器はビンテージ感のある音にしました。
デビューして5か月だけどYOUTUBEでは10年選手
で、まだ終わらないんですよ。ここでまた、藤井風ご本人にスポットを当ててみましょう。
公式YOUTUBEチャンネル見てみたら、なんかすごい何年も前の弾き語りがいっぱい出てくる。どうやら、YOUTUBEでいろんな曲をカバーしてきてるみたいなんですよね。
そして、その選曲がものすごい。個人的な思い入れというか、2000年前後に青春を生きていた人だったら嫌いな人います?ぐらいの名曲、キリンジの『エイリアンズ』は、歌ってなくてキーボード弾いてるだけなんだけど、これもう泣きますよ…。
2018年に撮影されたとは思えない質感の東京事変『群青日和』。なんか初期B'zみたいな風情があります。
めっちゃくちゃに選曲が良いんですよ。ものすごいベタなヒット曲もあるんだけど、2019年に『君は1000%』のカバーをこのクオリティでやってくれるのは貴重だと思う。
中華丼の具と共に歌う『フライデーチャイナタウン』も最高だった。楽曲のチョイスが素晴らしすぎませんか。
Yasuha (泰葉) - Flyday Chinatown フライディ・チャイナタウン カバー
実は、もう10年ぐらい前からのカバー曲の演奏がYOUTUBEに上がっているのだ。ともかくいろんなことのアーカイブ化がリアルタイムでYOUTUBE上でなされるようになってからの人、というのが新時代ですよね。
『Moon River』を演奏してるのは、12歳の頃だから、2009年とか2010年の映像。アップされたのが2012年。全然ぽっと出なんかじゃない。10年選手なんです。あ、一番古い動画が2009年に上がってたので11年選手だな。
"Moon River" 12years boy played by ELECTONE
『フライングゲット』のカバーも2011年にアップされてる。当時中学生とか。他にもアダルトな『おどるポンポコリン』とか日本を代表する楽曲になりつつある『Plastic Love』とかいろいろある。まだ全然聴ききれてない。
最強のパートナーにして実の兄、藤井空
で、藤井風少年のYOUTUBE動画、一人での演奏だけじゃなくて、二人でやってるsolakazeというチャンネルもあるんですよ。
一緒にやってるのが空さん、実のお兄さんなんです。これがねー、選曲がイルすぎるっていうか、昭和歌謡すぎるっていうか、マジでやばい。今年43歳の自分でも「古いな~」って思う曲ばっか。今の70代後半とかにとってはストライクなんだろうか。
裕ちゃんの『錆びたナイフ』に、『僕は泣いちっち』とか、昭和ど真ん中。お兄さん、ピアノだけじゃなくてトランペットも出来るし、オカリナも出来るんだよね。
このお兄さんの手堅い佇まいがあってからこそ、藤井風のやんちゃ感というか、わが道を行くというか、かなり浮世離れした生き方が許されているような気がする。最高のパートナーだよな。
で、お兄さんもめちゃめちゃピアノカバーあげてて、都庁ピアノで、弟の『何なんw』をカバーした動画なんてあるんだよ。弟の野生が突き上げるような楽曲を、本当にキラキラと愛情深くカバーしてる。そこに藤井風本人が「待ってました♡w」とかコメントしてるんだよ。
あとは、先述のYaffle小森コンビが手掛けてるiriの曲を、川崎のストリートピアノでカバーしてるとかも、これもなんつーか、隠された文脈が豊かすぎるんだわ。
iri 「Sparkle」 cover 【ミューザ川崎ピアノ】
ローカルな出自だからこそ、普遍的に届くのかもしれない
今回やばいでしょ情報量。これ書くの何日もかかってますからねw PD48の練習生動向まとめを中断してやってますもの。でも、ホント掘りがいがあるなーって感じなんですよね。
調べてて、藤井風の出自ってめちゃめちゃローカルだなーって思ったんですよ。郊外のニュータウンとかじゃなくて、岡山の人口1万くらいの郡でローカルな活動を続けていて、これまでカバーしてきた楽曲が、もうホントに日本ローカルでのヒット曲が多いんですよね。
洋楽スタンダードの楽曲もあるけど、でも、矢島美容室の曲をどんだけ日本以外の人が知ってるんだろう?って話なんですよ。solakazeでやってた昭和歌謡とかも、ホントにローカルなものでしょう。そこをめちゃめちゃ吸収してるってところがデカいと思うんです。
ということを考えていた時に読んだのが、先ほど貼ったYaffleのインタビューだったので、あー、そういうことか!と思ったのでこんな長文になってんですよね。もう一回貼ります。
ーYaffleプロジェクトはどういったものにしていきたいと思っていますか?
面白いものは作り続けたいですよね。自分の実績が増えて興味を持ってくれる人が増えれば、僕を媒介に色々な人を繋げていきたいです。イタリア人のジャズマンの演奏にフランスのラッパーをのせるみたいな。
あとはローカル的な曲にも惹かれてますね。イタリア語圏とかフランス語圏とか中国語圏とか、その中で文化ができているけど世界的なチャートには反映されない音楽とか。
実際ラファエル・グアラッツィっていうイタリアの歌手にイタリア語で歌ってもらった曲も作ってるんですよ。言ってる意味はわからないけど、彼らのローカル言語で歌ってもらったほうが説得力があるような気がして面白いんですよね。
日本で生まれて、海外に出て、各地でいろんなローカルなものに触れてその面白さに気づいた人が、めちゃくちゃ日本ローカルなルーツを持ったアーティストを手掛けてるんですよ。だって、「その中で文化ができているけど世界的なチャートには反映されない」ってめちゃくちゃJ-POPそのものですもの。
そして、岡山弁っていうローカル言語で歌うことによって、藤井風はものすごく説得力を得ている。これも、世界の国のいろんなアーティストとコラボしてきたYaffleの意識があってからこそ、なのかもしれない。
自分の中では、日本がどんどんアジアの中で相対化されていったのが、ゼロ年代から10年代だった気がしていて、20年代は、アジアの中でも特殊なローカルとしての日本という地域、という立ち位置が、日本人自身にとっても、もっと鮮明になってくると思うんですよね。
でもまぁそれは、悪いことでも何でもなく、ただの変化であって、アニメやゲームはずっと強い文化として持ってる国なわけだし、音楽だって、韓国のK-POPが10年代後半に世界に突き抜けて行ったように、世界的な普遍性を持つものが生まれていくかもしれない。
そういう意味で、藤井風は、2020年に日本でデビューすべき音楽家だったんだなぁ、と思ったわけです。
みたいなことを踏まえた上で、ライブ映像見てて、最前列にさ、70代ぐらいでしょうか?老婦人がいらして、この方、solakaze時代からのファンだったり、岡山で支えてきた方だったり、いやいや、めちゃめちゃ耳が早いリスナーだったり、どれだったとしても面白いなぁ…。